2008年01月25日

聖地巡礼その2・シアトル公共図書館を歩く

 シアトル公共図書館(http://www.spl.org/
)といえば、ガラス張りの斬新奇抜な新建築で当時だいぶ話題だったので、建築好きの江上としても図書館建築好きの江上としても(註:”好き”であって、ゼロ家言もしくはゼロ角の知識しかない)、機会があればぜひ拝観つかまつりたいと思ってましたので、その機会を作って、訪問してみたのですよ。

 シアトル公共図書館についてはざっくりと↓こちら。
 http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/cae/item.php?itemid=213
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カレントアウェアネス-E
No.38 2004.06.16 E207

シアトル公共図書館の新館が開館

シアトル公共図書館の中央館が5月23日に新装オープンし,開館初日には2万5千人を超える市民が来館した。ガラスとメッシュ状の鉄から構成された斬新な外観を有する建物は,オランダ人建築家コールハース(Rem Koolhaas)氏の設計で,総工費1億6,550万ドル,レベル0からレベル11までの12層構造となっている。

蔵書収蔵能力は145万冊,ゆるやかなスロープでらせん状につながった4層の開架スペース(Books Spiral)にはノンフィクションを中心に全蔵書の75%が配架されている。また,利用者用のコンピュータが400台設置され,50種以上のデータベース等が利用できるほか,無線LANにより,利用者は自らのPCを使用して,館内のどこからでもインターネットにアクセスできるという。蔵書にはRFIDタグ(無線タグ,E140参照)が貼付されており,貸出手続きの自動化,複数本の一括貸出手続き,返却資料の配架場所ごとの分別や並べ替えの自動化,資料の亡失防止等の機能を有する図書館システムが導入されている。レベル10に配置された閲覧室は1,100平方メートルを超える広さをもち,四方をガラスの壁面で囲まれ,360度の眺望が楽しめるなど,見所が多い。
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 いろんなかたの評なりを集めてみた。
http://www.underconcept.com/blog/archives/269
http://tenplusone.inax.co.jp/archives/2005/04/08152632.html
http://4travel.jp/traveler/tekuteku-walkman/album/10045179/
http://seattletimes.nwsource.com/pacificnw/2004/0425/cover.html
 写真とかは↑こちらで補完してください。

 それで、ここは毎日館内ツアーをやってる、というので、時間を確保して勇んで出向いてみたら、受付カウンターで”今日のはキャンセルドになりました”というので、心の中ではらはらと落涙した。そりゃまあ、英語わかんのか?と言われれば口をつむぐしかないんだけど、ここまで来て・・・。

 というわけで、手前勝手に館内を練り歩く感じなので、以下のコメントはだいぶひとりよがりな感じになりますよ。(←いつもどおり)

 まずこれが外観を撮った写真なんですけど、
seattle_A_32.JPG
 オフィシャルな写真は別にして、個人で旅行がてら訪れた人の写真がいくつかWebに載ってるのを見ると、どれも全景というよりは7-8割くらいしかうつってなくて、なんか中途な写真ばっかりだなあ、と、己の写真スキルの低さもなんのそのな感じで思ってたのですけど、実際に自分で撮ろうとしてみてわかりましたよ。ここは周囲の道幅がどこも狭くて(註:先の記事でシアトルは歩道が広くて歩きやすいと書きましたが、車道はむしろかなり狭い、さすが坂の街)、どんなにがんばって後ろにさがって見ても、パブリックなスペースから全景をばっちり撮影することなんて、夢のまた夢なのですよ。↑の江上の写真も、お向かいの、まだ開店してないカフェのテーブル席にちょっとお邪魔する感じで、ぎりぎりまで後退してやっと撮れた感じのあれですよ。
 ガラス張りの建物とはいえ、1年の2/3は雨という噂あふるるシアトルだけあって、曇天の今日もそれほど光り輝いているわけではなかったですよ。四方はどこも、この建物の倍以上ある高さの高層ビルばかりで、むしろ谷間のエアポケットみたいな感じだし。これを、例えば平野で周囲に何もない、太陽の燦燦と降り注ぐ土地にぽつんと建ててみたなら、この建物は光をどう反射さすのだろうか、館内にはどう陽が射すのだろうか、なんてシミュレーションなことを考えたりもしてたよ。

 入口。
seattle_A_27.JPG

 1階はお子様用閲覧室と、チェックイン・アウトと、多言語図書のエリア。
 まずもってここはIDタグを使ってるので、返却はベルトコンベアで自動的に運ばれていく。利用者が自分でぽおんとこのコンベアに載せただけで、たぶんどこかしらのタイミングでチェックインの処理はなされるのでしょう。ということは、利用者の返却時の動線が思っきし簡素になってしまう、ということでもあるのかな。
 多言語のエリアをのぞいてみてびっくりしたのだけど、(開架に限るんだけど)一番棚数・冊数の多いのが日本語図書だった。3000-4000冊くらいだったろうかな。欧米のふつーの公共図書館で、日本語図書が最多のとこなんか始めて見ましたよ。中国より多いだけでも珍しいのに、第2公用語であるはずのスパニッシュよりも余裕で多いのには、ちょっと驚愕した。シアトルはあなどれんな、と思った。それか、閉架なんだろうか。但し品揃え的なことを言うと、意図的な収集による蔵書は半分で、おそらく現地の人の読後寄贈的なのが半分くらいかな、という感じだった。

 1階から、メインフロアである3階へ向かうエスカレーター。
 もしくは、ニューヨークのデザイナーズ・ホテル。
seattle_A_25.JPG

 3階は”living room”という乙な名が付いてるよ。書架はフィクションや軽い雑誌の新着が中心で、ソファがだーっとならんでる感じ。床はカーペットとゴムっぽいタイルで、音は出ない。
 曇天だったのだけど、晴れてたらどんな光線具合になるんだろうかしら。
seattle_A_24.JPG
 ”ガラスを入れたアルミのメッシュの窓によって、日光を最小に抑える。多層構造のガラスにクリプトンのガスが注入されていて、熱移動を防ぐ。”と、案内板にはエコ技術解説が書いてあったよ。

 ここにはグッズショップとカフェもあるよ。
 グッズショップは↓これ。閉店時は閉める、ていう。集密書架は盗難防止にも使えるよ。
seattle_A_23.JPG
 カフェのほうは、いつでも組み立て・解体可能な感じの簡易スタンドみたいなやつだったよ。だからあまり魅力は感じなくて、写真はないよ。なんだけど、後日このカフェやショップがあった場所の写真を、本家サイトで確認してみたら、こんな感じだった。
livingroom_e.jpg
 ↑この写真の奥のほう、デスク席っぽいのがあるあたりに、いまはグッズショップがある。そして、真ん中あたりの黒い丸の床のところに、いまは簡易スタンドカフェがある。
 ということはこのショップもカフェも、どうやら開館当初はここに作られるべきものと計画されてたっていうわけではなさそう、に見えるのですよ。で、いつぞやのタイミングで、じゃあショップをこの場所にあのかたちで、カフェをこの場所に簡易スタンドで、というふうに設置されるようになった、と。
 多分注目すべきところはここじゃないかと、江上的には思うのだけど、ショップやカフェってやっぱほしいよね、ていうことにあとからなったときに、図書館運営的にもゴーサインを出す度量があったっていうだけでなくて、施設・建築的にもそれを受け入れる度量があった、ていうことの意味って、その柔軟性の持つ価値って、すごく大きいんじゃなかろうか。それは、例えば日本のどこぞの大学なりの図書館さんが、カフェだのショップだのを欲しいと言ったところでどこにそんな場所があんねん、とか、お店でなくとも、ラーニングコモンズなんか、講習会ルームなんか、展示ブースなんか、どこに作んねん、ていうネガティブ入口から入るんではなくて、なにかしら、どこかしらこう、道を考えてみる、ていうことができるんじゃなかろうか。そういうことを、なんか教わったような気がしたよ。

 もうひとつ。この3階にも、この図書館の出入り口があるのですよ。(註:坂の街なので、西側は1階に、東側は3階に出入り口がある) そして、本を借り出したい人はわざわざ1階まで行かなくても、ここにあるセルフの貸出機でぱっとチェックアウト処理をして、BDSゲートを通って、すっと外へ出る。インもアウトもカウンターへぐるっと立ち寄る必要がない。どうやらIDタグというやつは、かなり存外に、利用者・館員の動線を簡素化するものらしいよ。逆に言えば、動線の思い切った簡素化がなされないのでなければ、IDタグを導入する旨味は半減、ていうことかな。

 さらにもうひとつ。このフロアにはティーンエージャー向けのエリアもあるんだけど、そこには”Starbucks Teen Center”という怪しげな名前がついているよ。ちなみにボーイングがなんとか、マイクロソフトがなんとか、という施設も館内にはあるよ。
 日本のマンガは、ご丁寧に特設コーナーで、ごっそり置いてあったよ。もはやタイトルをいちいち追うつもりはないくらいに、充実しているよ。アメリカンコミックの軽く倍。雑誌も、Teen Vogueとかいうのに混じって、Shonen Jump、Shojo BeatやNewtype USAがそろっているよ。ブランチの図書館では隔週でアニメクラブも開催しているらしいよ。

 この3階をうろちょろ見てまわってると、ライブラリアンの人に”何か探してますか? ヘルプいりますか?”て、3-4回くらい声をかけられたよ。何年か前に図書館サービスを議題に日本の図書館員たちで討論会みたいのをやったことがあって、書架フロアや書庫で何か探しものをしてそうな人がいてたら声をかけるかどうか、という流れになって、なんとなく恥ずかしくてなかなかできない、ていう人がその場ではほとんどだったんだけど、そんなことくらいがなかなかできないとかゆってるような段階で、サービス語って何か意味があるのか、とだいぶ鶏冠を真っ赤にした覚えがあるよ。
 シアトル市民の人柄が気さく、という説も、あるにはあるけど。

 5階、mixing chamberは、生活・ビジネス・医療・教育といった実用的な参考図書がふんだんにならんでる感じのと、利用者用パソコンがずらっとならんでる感じ。税金申告用の用紙が山積みになってて、税金準備講習会みたいのもやっているよ。

 4階。中二階みたいになってる、なんか、真っ赤なフロア。どうにかなりそう。
SEA_A_18.JPG

 6階から9階は一般書架フロアなんだけど、”Books Spiral”みたいな名前がついてる。というのも、6階の端から9階の端までの床が、すべてひとつづきのらせん状のスロープになっているのですよ。フロアの真ん中が階段&エスカレータで、右と左に書架フロアがあって、その書架フロアが階段&エスカレータを中心にぐるぐるとまわって、上へ続いていく、という。一見すると、また奇をてらった建築にしやがって、と苦々しく思うむきもあるかもしれないのだけど、これが歩いてみたら思ってたよりも数倍便利でわかりやすくて快適なのですよ、だって、デューイの請求記号がいっさい途切れることなく、1本のラインで続いてくれてるんですもの。分断されないんですもの。実際、ひとつ探してみた本がたまたまそういうフロアの端境付近に位置していて、なるほど、ここでフロア移動せずに済むことの意味というものを、ひしと実感したのですよ。
seattle_A_08.JPG
 ↑床が傾斜してますでしょ。
 床のサインはデューイで、ゴムのパネルでできていて、取り外し可能=書架移動に応じて変更できる。但し、ちょっと汚れてきてる(笑)。
 書架も見えるとおもうんですけど、アルミ板&半透明パネル。アルミが薄くて、パネルが半透明で、光を透してくれる、ていうだけでも、書架のイメージがこうも明るくなるもんなんだなあ、と心動いたよ。インテリアについても勉強しないとだめなんだなあ。
 天井は↓こう。
SEA_A_07.JPG
 蛍光灯をしましまの透明パネルで隠す感じで、フロア全体に光が行き届いているよ。

 10階までスパイラルは続いてるよ。10階は勉強したい人向けのリーディングルームと、特殊コレクションがあるエリア。
 Seattle roomという名前の付いた特殊コレクションは、時間限定でしか開いてないエリアで、その限定エリアをパーティションで囲んで時間外は入れないようにしている、という按配なのですけど、そのパーティションが半透明のパネル。この半透明というのがまた存外に良くて、まずこの特殊コレクションが疎外されている印象がない。それから、光を透してくれるので、フロアに影を産まない。そもそもが晴天日の少ないとおっしゃるこのシアトルにおいて、たぶんそのことの持つ意味は大きいんじゃなかろうか、と思う。
SEA_A_14.JPG
 そう思って、あらためてフロアを観察しなおしてみると、随所に光をさえぎらない工夫がなされてるのがわかるのですよ。例えば、吹き抜けを上からのぞきこむと、スタッフエリアが見えそうになるんだけど、見えないように梁で覆ってて、それが、屋根や壁で覆うのではなく梁で覆うっていうのがミソで、視界はさえぎられるんだけど、光はさえぎってない。その吹き抜けと通路の仕切りも、壁ではなくて厚手のアルミの網板で仕切るから、光は透すけど、視界は通さない。あちこちにある半透明パネルも、そう。壁があったとしても肩までとか胸までとかであって、動線は区切るけど光はさえぎらない。効果的な採光も開放感も失わずして、スタッフエリアをぼんやりとバリアーしてる、という感じ。
seattle_A_10.JPG
SEA_A_09.JPG
 それだけじゃなく、スタッフエリアと利用者エリアがみっちり近接してるのに、とてつもなく明確に棲み分けできてる感じがするよ。館内のあちこちにレファレンスカウンターがあるんだけど、すべてのカウンターはスタッフエリアと利用者エリアとが接するところにあるよ。エレベータの置き方なんかわりと絶妙で、利用者用エレベータ3台と業務用エレベータ1台が同じ場所に固まって設置されてて、ただ1台の業務用エレベータだけが胸高の壁で囲われてて、スタッフエリアとつながってる、ていう。だから、館内のエレベータエリアが1箇所で済んでるよ。いいなあ。
 まあ、実際にここに住まうスタッフの人たちの感想を聞いたわけではないので、うかつなことは言えないかもしれないけども。

 でもなんてんだろう、うかつなことを言っちゃうと(言うんだ(笑))、建築の持つアート的なのと、建築の機能的なのと、図書館の機能面的なのと、図書館の利用者向けわかりやすさと、以上の4つが上手ぅに同居してるような気がしたよ。

 無線LANもふつーに使えるし、不愉快なほど混んではないし、滞在して勉強するにはもってこいのありがたい場所で、またしてもシアトル市民への羨望を強くしたのでしたよ。

posted by egamihvu at 08:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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