2007年11月12日

ハーバード大学の保存書庫、“Harvard Depository”を実際に見た。

 今回のポイントは、”死蔵”ではなく”活蔵”書庫であるということ。
 某日記の下書きに加え、そこから漏れた小ネタを拾遺として羅列。いつも、この小ネタが漏れちゃってることが微妙に悲しかったよ。
 タイトル未定。7で「Harvard Depository」て書いちゃったので、どうしたもんか、思案中。

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(第19回)

 7月にご紹介した、ハーバード大学の保存書庫、“Harvard Depository”を実際に訪問・見学する機会を得ました。
 Harvard Depository(以下、HD)があるSouthboro Campusは、大学のメインキャンパスであるハーバードヤードから西へ約40km、車で30分ほどの郊外に位置しています。ここには各図書館の蔵書のうち、利用頻度の比較的低いものが納められています。欲しい本がある利用者は、OPACの検索結果画面で自らリクエストを送ることができ、翌日には指定した図書館で受け取ることができます。

 Harvard Depository
 http://hul.harvard.edu/hd/

 7. Harvard Depository
 http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/wordpress/index.php?p=24

 (写真)

 HDの最初の書庫がオープンしたのは、1986年。需要に応じて増設していけるよう、ユニット式の構造が採用され、その後、現在までに計6つの書庫ユニットが設けられています。地上3階建ての高さの建物の中に、高さ約9メートルのスチール製書架が並び、6書庫合計で約1120万冊の図書を収蔵することが可能です。ちなみに、最近の多くの図書館が採用しているのは機械化された自動書庫ですが、このHDは自動書庫でも集密書架でもなく、固定式の書架を採用しています。HDのスタッフが専用のリフトを使って、直接棚から資料を出し入れします。各所蔵館のスタッフが直接資料にアクセスすることはなく、検索・出納を行なうのはHDスタッフのみです。

 このHDの最大の使命は、「資料を長期間にわたって保存すること」です。そのために必要な、安全で信頼できる保存環境作りのため、様々な努力がなされています。書庫内全体は年間を通して温度10℃・相対湿度35%に保たれており、急激な温度変化が生じることのないよう、常時監視されています。他にも、紫外線カットフィルター付きの蛍光灯、水漏れのないよう分厚いゴムで覆われた屋根、酸性物質の伝播を防ぐ中性素材の梱包資材、換気システムによるホコリの除去、さらに低温・低湿度のフィルム資料専用書庫など。書庫だけでなく、リクエストされた図書を各図書館へ配送するための運搬車内も、温度湿度管理がなされています。さらに、このHDで実際に資料を扱うスタッフは、事前に各種資料の適切な取り扱いについてのトレーニングを受けているとのことです。
 以上のような努力の結果、このHDで保管された紙資料の寿命は、典型的なオフィス環境における寿命の8倍にあたる、という見積りが学内の保存専門部署から出されています。また、HD内ではいわゆる”貴重書”の類を別置するということはせず、一般の図書と同じ扱いで保管しています。理由は、どちらにも完璧な保存環境だから、だそうです。
 この資料と保存環境とを保つ努力は、資料をHDに送る各図書館の側にも求められます。各館は、学内の保存部署が作成したガイドライン(「Transfer of Library Materials to the Harvard Depository」http://preserve.harvard.edu/guidelines/hdtransfer.html)に従って準備をしなければなりません。資料が特殊な形状であったり、壊れやすい状態にある場合には、封筒に入れる、箱に入れる、紙で包む、紐でしばるなど、それ相当の梱包が必要です。また、ほかの資料に悪影響を及ぼすことのないよう、ホコリやカビはあらかじめきれいにクリーニングされていなければなりません。カビの付着した図書が届いた場合、HDは所蔵館にその資料を返送するそうです。逆に、適切な梱包さえされていれば、壊れやすそうな過敏な状態にある資料はHDに送って保管されるべきであるということを、HD自身が推奨しています。

 もうひとつのHDの重大な使命は、「資料の検索・出納を可能にすること」です。スペースの節約のため、HD内の資料は請求記号・分類などをすべて無視され、サイズ別に仕分けられて棚に収められます。これらを検索し、必要に応じて出納するため、すべての資料にバーコードの貼付が義務付けられています。
 HDに到着し、サイズ別に仕分けられた図書は、資料を収める紙製のトレイに収められます。このトレイにもバーコードがついており、スタッフによって図書のバーコードとトレイのバーコードとがスキャンされ、専用のデータベースに登録されます。なお、スキャン時のミスや漏れを防ぐために、このスキャン作業は2度行なわれます。また、資料の混同や逸失を防ぐ目的から、ひとつのトレイ内に別の図書館の蔵書が混ぜられることもありません。さらには、資料の保全とスムーズな出納のため、ある程度の余裕を持たせた状態でトレイに詰められます。
 図書の収められたトレイは、リフトで書架まで運ばれ、スタッフの手によって棚に収められます。書架の棚ひとつひとつにもバーコードが貼付されており、トレイと棚のバーコードがスキャンされます。これらの作業によって構築されたデータベースを元に、資料の検索・同定・出納が行なわれることになります。
 「7. Harvard Depository」(http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/wordpress/index.php?p=24)のように、利用者から図書のリクエストが届くと、そのバーコード番号を元に該当する図書が書架から取り出されます。通常であれば、リクエストの翌日(朝7時以前のリクエストなら当日)午後2時までに、指定された図書館にその図書が届けられます。緊急時には、即日に処理・配送されるサービスもあるようです。なお、返却された図書は、元あったトレイに収められます。

 以上のような、”保存”・”検索・出納”における厳しい品質管理のもと、現在約700万冊の資料が保管されています。このHDによる保存書庫の管理方法は、国際的にスタンダードなものとして認められ、イギリスのBritish Libraryやオーストラリアなどで採用されているそうです。
 実際に見学して強く感じたのは、このHDはあくまでも「本を活きたまま保存するための書庫」であるということです。決して、邪魔になったものを追いやるためのものでも、古い本を死蔵するためのものでもありません。必要な本はバーコード番号さえ判ればすぐに取り出される。どこに何があるかが確実に判る。狭い場所にぎゅうぎゅうに押し込まれるのではなく、ある程度の余裕を持って安全に収められる。通常の書架以上に適した環境が保たれ、資料の状態に合わせた梱包がなされる、といったような、最大限の配慮がなされています。
 それは、ハーバード図書館が、すべての本を現物として尊重し、それらは誰かに使われるためにあること、かつ守られなければならないものであることを、原則として認識していることの証ではないかと思います。

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 拾遺ネタ。

(資料の収蔵)
・新着と返却とでは担当者もプロセスも異なる。新着のbinは灰色、返却のbinは赤。
・簡単なテンプレートが仕訳デスクにあって簡単に仕訳できる。A-Eの5種類に仕訳される。もっとも一般的なサイズBが全体の43%を占める。
・新規収蔵資料がリクエスト対応可能になるのに2-3日かかる。
・HDではバーコード以外の資料データは管理しない。アクセスポイント・管理方法は唯一、バーコードのみ。
・各図書館でどの蔵書をHDに送ったかの管理、その送った図書についてHOLLISに繁栄させる管理は、すべて図書館側の責任である。図書館側でバーコードをスキャンし忘れたまま送るなどしてしまった場合、探せなくなってしまう恐れがある。
・バーコードラベルの発注をHD経由で行なうことができる。バーコードはHDで印刷もしてくれる。自前で印刷を調達しても良いが、そのバーコードは、HDでスキャン可能であることが確認されたものでなければならない。
・図書のバーコードは、背表紙を左にしたときの左上。必ずそこ。じゃないとスキャンの効率が落ちる。但し、縦書きの日本・中国図書にはすこぶる不都合だよね。
・紙文書については、1フィート立法の箱(取っ手・ふたつき)に納めなければならない。
・未製本雑誌は箱詰めが推奨される。

(保存環境)
・蛍光灯は感知式で、最小限しかつかないようにしている。
・HDは資料の保存・保全に最大の注意を払うが、但し、汚損・紛失等への補償はしない。
・例えば、資料を持ち込む/持ち出すトラックは、倉庫ビルの中に入り込みはするが、二重扉の合間に駐車するスペースが作られており、車の排気ガスがビル内に入り込まないように配慮している。外扉だけ開く→車が入る→外扉を閉める→排気ガスを抜く→内扉が開く。
・殺虫用の電灯。(←あれ、なんていうんだっけ?)
・書庫内で使われるリフト等の電気は、安全のため、書庫とは別のエリアでチャージされる。
・資料が引き受けられない場合がある。資料の成分が農業製品、生物、化学的に不安定なもの。危険物。

(書架・スペース)
・HDはSouthboroキャンパス(MedicalSchoolや何かしらの研究所とHDの3つがある)内で、隣接するところには何もなく、林ばかりなので、スペースが足りなくなったらまた増設することはいくらでも可能と思われる。アメリカだなあ(笑)。
・今後必要に応じて増設可能なように、ユニット式の設備としてデザインされている。最終的には15のユニットを構築することが可能であり、そうなった場合には175500平方フィートの書庫スペース=300万フィートの長さの書架を得ることができる。
・棚のサイズは幅53インチ(134cm)、奥行き36インチ(90cm)。
・棚1つにつき平均して250冊の本(トレイ8〜16個)を納めることができる。
・建築設計図・絵画・ポスターなどの大型一枚ものについては、専用のスペースが与えられる。ファイルキャビネットがある。引き出し型。50*38*2.1インチ。総計4400立方フィート。
・一枚もののデリバリーに際しては特注のケースが用いられる。頑丈で、フラットで、パッド入り。49.5*37*2インチ。
・引き出し内では、規定のサイズのフォルダを使い、同じくバーコードを貼付している。これで出納・管理手順が他の資料と同じになるので、特殊形状の資料も効率的に取り扱うことができる。(←ここ重要)
・ひとつの棚にぎゅうぎゅうになるまでトレイや箱を詰めたりしない。例えば、フラットな資料を置いている棚の場合、分厚い箱は2つまでしか重ねていない。スムーズに取り出せるように、そして、危なくないように。
・ひとつの棚の横幅×奥行きが、トレイ・文書箱・アーカイブboxがそれぞれ規定個数がきれいに(かつスムーズに取り出せるだけの余裕を持って)納まるようなサイズになっている。
・図書用のトレイは、ひとつの棚に前後に2つ納まっている。

(デリバリー)
・デリバリー用の車両も温度湿度管理を行なっている。
・デリバリー用車両は1館につき1日30箱が限度。30箱を超える場合は、提携運搬業者を雇う。[*01]
・デリバリー用のBins(プラスチック製、21.5*15*12.5高さインチ)をHDが提供・管理する。無料。灰色は新規受入、赤は貸出用。
・よりデリケートな資料の運搬には、アーカイバルボックスも提供。有料。[*01]
・それ以外のタイプのコンテナや梱包資材(一枚もの用箱、縛るリボンなど)についても準備しているので、応相談。

(その他)
・スタッフは総勢26人。
・ハーバード大学のほか、MITや学会・協会等もクライアントである。
・<?要確認>保管・出納は従量課金制。
posted by egamihvu at 04:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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