2007年11月01日

ハーバードのオープンなアクセスの未来予想図

 ハーバードで、学内研究者の研究成果を大学がリポジトリ的なのでオープンにアクセスできるようにしましょう、という統一的な合意を固めようとしておられる、というのは日本のみなさんもCA-Rのこの記事→(http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/car/index.php?p=4297)でご存知かと思うんですが、ていうか、江上もこの記事で知った具合(笑)だし、こっちの図書館の人たちもだいたいがこの記事のソースたる学生新聞で知ったとかいう感じらしいのですが、まあそれはともあれ。
 この経緯のおおまかなところは、まず10月の初め頃に、委員会からfacultyの人たちの会議に提案がなされました、と。それから10月末の今週に、委員会の人が2回の半オープン(半開き!?(笑))なミーティングを開いて、1回はfacultyの人たち向け、もう1回はライブラリアン向けの説明と議論を行ないます(した)、と。それで11月の半ばに、この案を可とするかどうかの投票を行ないます、と。
 いうわけで、今日はその、ライブラリアン向けの説明と議論のミーティングを拝見してきた、という話なんですけど。

 まくらその1。
 こういうとき日本では「説明会」という言葉が使われるんだけど、この言葉って結構卑怯だなあと思うのが、「これはあくまで説明であって、質問には答えてやってもいいけど、こっちの決め事を変えるつもりは毛頭ねえからな」ていう感じじゃないですか。でも今回のこの回は”meeting”て書いてあったので、ここでは「説明会」て言葉は使わない。

 まくらその2。
 この説明会に先んじて、この委員会のトップの人=ハーバード図書館機構の長たる教員の先生から、学内ライブラリアンに宛てたletter文書と、提案された規約の原案・解説・Q&Aの文書とが、学内の各図書館のスタッフにメールで送られてきたのですよ。だからそこにいろんなことが書いてあって、しかも「自信を持ってこの文書をお届けする」みたいなこともでっかく書いてあるから、すごいなあと思って、そこに書いてある内容を日本のみなさんにお届けしたら、自分にしてはまあいい罪滅ぼし(笑)になるだろうと思って、自分なりにいろいろと要約してみてたところが、ふと、あれ、よく考えたらなんでこんなところに「自信を持ってお届けする」なんてことわざわざ宣言してるんだろう、と疑問に思って、英辞郎さんに問うてみたさ。

 ・・・・・・「部外秘の」!?

 ”confident”=自信のある、確信した
 ”confidential”=機密の、部外秘の

 まあよくできた話(笑)。
 という感じで、危うく部外秘の文書内容をネットに晒すところでしたよ。
 怖いので、以降の話も、なんとなあくな感じで書いてます。

 さて本題に戻りまして、そのミーティングの会場に行ってみたのですよ。

 その会場というのは、前日にとある講演会が行なわれたところで、その講演会というのは、この秋に新しく就任したハーバード図書館機構の長たる教員の先生が、学内のライブラリアン向けに、という記念講演的なのだったんですけど、そのときはこの会場、だいたい300人くらい入る感じのホールなんですけど、もう完全満席で立ち見が出るという賑わいだったのですね。
 で、今日はまったく同じ会場で、これもまったく同じ人=ハーバード図書館機構の長たる教員の先生による、オープンアクセス関連の学内合意についての説明と議論、でしょ。
 ・・・・・・2-30人でした。さしもの我が目を疑いました。がらんどうだった。ギャランドゥだった。
 で、まあちょっと驚きはしたけど、まあそりゃそうだろうな、と納得もしたのでしたよ。そりゃ、リポジトリのオープンなアクセスは、現在の大学図書館・学術情報業界にとっての重要な課題のひとつであることにはまちがいなかろうけど、あくまで”ひとつ”であって、みんながみんな来るようなものでもなかろう、と。例えば館長先生の記念講演ならぜひ聴いときたい、と思う人らと同じくらいの人数のライブラリアンに、このテーマが緊密・喫緊・ダイレクトに関わるかといったら、まあ必ずしもそうではなくて、やらなあかんことは他にも山ほどあるわけだし、それぞれのライブラリアンがそれぞれのやるべきことを専心してやってるわけだし。そんな中にあって、じゃあこのリポジトリのオープンなアクセスというテーマが自分のフィールドにとって重要であると、もしくはマネジメントの立場だから重要とせざるを得ないと、自分自身でそう判断した人たちが集まったわけなんであって、その結果が、ハーバード内総計2000人といわれる図書館関係者のうちの、2-30人であると。うん、そう考えれば、至極まっとう健全な状態だな、と思い直したのでしたよ。

 それでまあ、例によって例のごとく、江上の英語力では2割3割程度の理解が限度(涙)なわけですが、それでも聴いてるうちにだんだんわかってきたことなんですけど。
 初めのうち、例えば会場からの質問で「オープンアクセスっていうのは、ハーバード学内の人だけがアクセスできるの?」とか「出版者の人たちと交渉しないといけないんじゃないの?」とかいう質問があったりして、おいおい、そこからかよ(驚)と、この分野オンチの江上もちょっとあれ?と思わされたり。或いは、そもそもオープンアクセスは機関リポジトリというのは、学術コミュニケーションにとって是か非か、メリットはどうでデメリットはどうなんだ、というような議論が延々続いてて、そんな根源的な議論を、いまごろになって、一大学内での合意についてのミーティングの場でしても、あんま意味なくないか? オープンアクセスがどういうもんかくらい、もう世界でとっくに議論されてるだろう、学術情報流通にどういうメリットがあるもんかということくらい知ってるだろう、とか思いながら江上は見てたのですよ。
 でも、しばらくして、あ、ちがう、そうじゃないんだ、ということに気付かされたのですが、それは、この人たちは決して、リポジトリのオープンなアクセスというものを、すべての図書館関係者が総出で賛同して当然の概念として認めてるわけでは決してない。確かに、昨今の学術情報環境下では有効な方法のひとつであろうということを、一般論としては認めるにもしろ、それを我らがハーバード大学で採用するということが、果たして有効なのか有効でないのか。ハーバードにとって是なのか非なのか、ハーバードにとってのメリットはどうでデメリットはどうなのか。ひいては、この委員会が提案した原案を、我々はどう評価するべきなのか、ということを、真剣に議論してはるんやな、というふうに見て取ったのでしたよ。
 それは、「よそが皆やってるから、うちも」ていうノリでは決してない。「大学図書館員なら賛同して当たり前」ていう支配された空気感での議論でもない。ましてや「お金がつくから」なんてことが起点の話では決してない

 一般論ではこうである、とされている話の内容を、あらためて、最初の最初から、自分たちの大学の問題として、ハーバードではどうなんだ、という議論を真剣にやっておられる、と。
 ネットでの学術情報の効果的な流通とか、研究成果をオープンにするだとか、雑誌危機への対策だとか、そういうことへの対応策の”ひとつ”に有効な概念であり仕組みであるということは、百も承知で。
 それでもなお、一般論や外部の評価を、”当たり前”の前提として盲目的に飲み込むのではなくて、じゃあそれがハーバードではどうなんだ、と。

 ・・・・・・じゃなかったら、オンチの江上ですらなんとなく聞いたことあるような議論が、いまさら延々と続くわけがないもんなあ。

 しかもよくよく見てみると、HCL(Harvard College Library。ワイドナー図書館などからなる学内の図書館グループ)のトップのお偉い人とか、Depositoryの部署(ハーバードの蔵書の電子化・ネット公開を担当している)のど真ん中なフィールドの人とか、江上の理解では完全に教壇側に立って質問に答えてそうな立場の人たちが、まったく逆の、質問を投げかける観客席側に座ってて、それでもって延々議論してるわけだから、あ、これはほんとに、よっぽど手前の段階に立って、この”リポジトリのオープンなアクセス”というものをゼロから値踏みしておられるんだな、という。

 そういう人たちが、そういう姿勢で議論しあった上で導入される機関リポジトリだったら、それはそれは、地に足の着いた学術情報流通システムとして築かれることでしょう。

 と、なんだか妙に安心したのでしたよ。

 ちなみに、そんなゼロからの値踏みの議論なわけだから、具体的なシステムがどうのこうの、手続き手順がどうのこうのなんてのは、きわめてざっくりとした話でしかなかったのだけど。まあそういうのは、こちらさん流のやり方で言えば、やると決まったら、具体的なことについてはその担当の部署だけが専心的にまっとうすればいい、というあれなんでしょう。
 そしてそれは多分、まだもっと、ずっと先の話。

 ・・・・・・えーと、あれ、この夕方のミーティングに2-30人しか来てなかったのは、ひょっとして今夜がハロウィンだから?



posted by egamihvu at 09:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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