2007年09月18日

HCLの保存部署を訪問してみた。

 この記事は一見「資料保存」がテーマの記事のように見えますが、それ以前のもっともっと大切なことを自分に教えてくれたよ、という事柄として記しておくのです。
 そして、最後の最後に記したような理由で、例えばハーバード大学図書館とかに実地見聞出張とかにいらっしゃる機会のある方におかれましては、よしんば「資料保存」をテーマとしたそれではなかったとしても、ここをご訪問なさる価値めちゃめちゃありですよ、ということを切に訴えたいと思うたのです。

 以上、まくら。

 とある機会を得て、HCL(Harvard College Libraries)の保存部署を訪れてみました。先日の記事(http://hvuday.seesaa.net/article/53132410.html)にて出迎えてくれはった人の部署、ということです。

 そもそもハーバード大学には、HUL(Harvard University Libraries)配下の保存部署である”Weissman Preservation Center Special Collections Conversation Lab”(以下WPC保存部署と略す)というところと、HCL内の保存部署である”Harvard College Library Collections Conservation Lab”(以下HCL保存部署と略す)というところとの2つがあってですね、WPC保存部署のほうは「貴重書・唯一資料」を対象としているのに対し、HCL保存部署のほうは「一般貸出図書」「製本」を対象としている、というざっくりした理解でよいと思います。(ここで、じゃあHCL外の図書館・図書室の一般貸出図書は誰が面倒見るの?という疑問が起こるわけですが、ま、わかったらまた報告しまぁす。)

Harvard College Library Collections Conservation Lab
http://preserve.harvard.edu/conservation/generalcollections.html

'Medieval Crafts and Modern Technologies: Collections Conservation in Harvard’s Widener Library'
Harvard University Library Letters (May 2003)
http://hul.harvard.edu/publications/letters030511.pdf

 で、そこを見学訪問したのは、とある日本から来た先生が訪問なさるののご相伴にあずかるといった感じで、同行させてもらったわけなのですが、えっと、相手はもちろん英語でしょ、で、同行者として横で聴いてるでしょ。あれですね、こういう英語下での見学訪問って、1対1とか、相手が複数であってもこっちが1人であれば、多少英語がわからなかったところで、「エクスキューズミー、アゲインプリーズ」とか「スローリープリーズ」とかひっきりなしに相手を止めながら聴けるから、ある程度理解しながら聴いていけるんですけど、こっちサイドが複数人だと、自分の都合で相手の話を止めるわけにはいかないから、どんどん話が進んじゃってわかんないまま終わる、てことになっちゃうんですよね。だからやっぱり、こういうのはできる限り自分1人で、しかも事前質問票かなにか送っておくなどして、自分のペースで話を聴けるようにしておいたほうが確実にいいな、という思いを新たにしたのですよ。これは余録。

 とは言うものの、実にフレンドリーで説明上手で、しかも江上にとって聴き取りやすい英語をしゃべってくれはる説明者のおかげで、実に楽しめた、勉強になった、いい経験になった見学訪問ではありましたよ。実をいうと、それほどまでには「一般図書の修繕」といったことに興味のなかった江上でさえも、充分に感銘を受けてベタぼれして帰ったあれでした。↓下記に挙げた事柄のひとつひとつがうらやましい、ていう。
 その、あれこれ。

・場所は、ワイドナー図書館の地下に計4000平方フィート(註:いっさい見当つかない単位(笑))の、広くて、つい最近されたきれいな場所を確保。ここに、この修復用のラボだけではなくて、イメージングサービスなどの撮影・デジタル化関係のオフィス・ラボが集積しているよ。
・江上のヒアリングにまちがいがなければ、年間4万点の本を処理しているとおっしゃるのだけど、ほんとかな。雑誌やソフトカバー本の製本まで含めていくとそうなるのかもしれない。
・写真撮影は許可されなかったのですが、Webツアーが公開されているよ。
 http://preserve.harvard.edu/conservation/labtourhcl/labtour01.html
 (註:あ、もしかしてここを丹念に読んだら、↓とちがうこと書いてあるかも(汗))

 そのうちの貸出用図書修復のラボを中心に拝見していきました。

・ラボ内には広机がふんだんにあって、まず作業がしやすい。専用の機器・器具類がふんだんに置いてある。
・これはまちがいない数字で、ここのラボにはスタッフが20人いるらしい。おそれいりました。m(_ _)m
・照明が壁や天井にあるのだけど、どれもうっすらカバーされていて、間接照明になっている。
・例えば傷みやすそうな本を箱にくるむという、その箱も、すべてその本ひとつひとつにサイズを合わせた”テーラー・メイド”のものを、ここで自作するのですよ。その箱を効率よく作成するために、例えば、本の3辺の寸法を1回で測れる箱型のメジャー(註:箱の角に本を合わせれば、縦・横・厚みの長さがわかる)とか、厚紙をどう切れば求める直方体の箱が作れるかがわかる専用のチャートとか、その厚紙を切るでっかいカッターは、手ではなく足で操作できるようになっているとか、そういうのも用意されている。どう考えたって仕事がしやすい。
・地図やポスターを折らずに丸ごと収納できる箱も、オーダーメイドで作る。その箱を作るためのものすごいでかいカッターとかがある。
・新聞等は、端の辺が傷まないように、その新聞のサイズよりもひとまわり大きい厚紙で、六花亭のバターサンドみたいにして挟んで、ベルトで縛る。
・テーラー・メイドの再製本もする。但し、ここに送られて来たものをまず個別に診断して、外部に製本を依頼するものと、ここで修繕するものとにわけて(そういえば、どういう理由でどうわけるんだろう??)、処理する。
・その再製本の全工程に、それぞれひとりづつ担当者がいて、全体で流れ作業になるようになっているので、さながらトヨタかどっかの自動車工場を見ているみたいでしたよ。日本のお家芸”カイゼン”がここにありましたよ。
・しかも、例えば再製本のため、背表紙の下にまず和紙を貼り、その上にカバーのための紙を貼り、ていう作業なんだけど、その貼るための背の幅を手早くちゃちゃっと測れるための専用のメジャーを手作りしていたりとか、あらかじめ和紙を細長く切ったやつを、幅センチごとに、大量にストックしていて、その上に貼る背表紙用の紙に至っては、サイズだけでなく色までもあらかじめ大量にストックしていて、どう考えたって効率が良い。
・だからこの部署では、以前は受け取ってから返却するまで1ヶ月かかっていたのが、ここ最近では2週間で返すことができるようになった。ということで、これは実際に常日頃から依頼の仕事をしていらっしゃるイェンチンのスタッフさんも感心しておられたことですよ。
・それでいて極端な”カイゼン”一辺倒でもないよというのが、できるだけオリジナルの資料を残すべきであるという考え方から、再製本後の背表紙に、オリジナルの背表紙を切り取ってぴっちり貼って、しかも再製本した表紙の色をそのオリジナルの背表紙のとあわせることで、オリジナルの背表紙も残すし、見た目上にも違和感のないように仕上げるしという、この辺のことを”スクラップ&ビルド”しか能のない日本の年寄りどもには是非見習ってほしいと思うたよ。
・再製本し終わった本には、この本はどの部署がいつ処置しました、ていう日付シールが貼られる。
・製本するほどでもないけど守りたい本は、そのサイズにあわせたビニール製のポケットカバーをかぶせる。サイズにピッタリあうようなポケットカバーを作れる、専用の機械(熱でビニールをくっつけるやつ)を使っておられるよ。CoLibri社のCover SystemのPocketという機械。(http://www.colibriusa.com/product_colibri.php
・例えば、日本の明治大正期の本はこんな造りになってるから、こう製本したらいい、というのが一目で判るように、サンプルをひとつ作っておいてさっと参照できるようにしている。実にスマートで合理的なやり方じゃないですか、ほんとに惚れ惚れしたですよ。
・みなさんひとりひとりに工程の担当があって、ひとりひとりに自分の作業台があるのだけど、よく見ると、どの作業代もふつーの事務机よりかなり高い位置にあって、しかもみなさん高さの高いイスに腰掛けて、作業してらっしゃる。なんでこんな高いんだろうと不思議に思ってたんだけど、あれはたぶん、立った姿勢でも作業のできる台、ということなんでしょうな。立ったままのほうが、動きやすかったり力をかけられたりするからな。
・イメージングサービス部署さんのほうでマイクロフィルム撮影をするにあたって、こっちの部署でいったん解体してから撮影し、あらためて再製本する、ということをやったこともあるらしい。

 それ以外の部署。

・製本準備室。雑誌とか図書とかで、修復というよりも業者製本に出すものについて取り扱う専門の部署。ソフトカバーで買った日本の本とかをいきなり製本に出してハードカバーにしたりする。
・蔵書票専門(!)の部署。寄贈者別の蔵書票を貼るほか、小口に所蔵館のスタンプを押したりする。

 まあなんつってもあれですね、4週間の仕事を2週間に短縮させたという徹底的な”カイゼン”ぶりと、それを支える贅沢でふんだんな人員・部屋・什器類と、背後に保たれている「なんのためにConservationするか」というまっとうで安定した考え方と、それでいておひとりおひとりの働き振りを傍で拝見してるというと、みな一様に真剣で、話しかけるとみな一様に誇らしげで、しかもみな一様に楽しそう、ていう、そりゃそうだろう、こんだけ効率的な仕事ができる環境が整っていて、しかも実際数もかせげてるんだったら、この仕事楽しい、って思えるよ、業績評価云々とかじゃなくてさ。そういう人たちが仕事してる部署だから、こういう小洒落たグッズ(http://hvuday.seesaa.net/article/50456890.html)もできるってもんなんだな、とちょっと納得したもの。
 日本の自分とこの図書館で資料保存・修復の専門部署を持てるのかどうか、という問題はともかくとして、いやもっとそれ以前に、どうやったら仕事を効率的にできるかということ。その”効率的に仕事をする”ということの意義ってのはそもそも何なのか。それによって守られるべきは、何ちゃら目標の帳尻なのか、利用者の益なのか、資料そのものなのか、働いてる我々の気持ち的なものなのか。というようなことを、ちょっとこの人たちから本気で学ばせてもらわんとあかんな、と、思うたでした。うらやましがるとかじゃなくて。
posted by egamihvu at 19:47| Comment(0) | TrackBack(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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